保育士試験は、9科目ある筆記試験に全て合格すると、次は実技試験です。実技試験は、「音楽に関する技術」「造形に関する技術」「言語に関する技術」の3分野から2分野を選びます。
実技試験は筆記試験と比べると難易度は低く、合格率は約80%です。そうはいっても5人に1人は落ちるわけですから、油断は禁物です。
本記事では、選択する人の多いピアノの実技試験に合格するためのポイントについて解説します。
目次
1. 保育士試験音楽について
1-1. 保育士試験音楽の実技試験の狙い
一般社団法人全国保育士養成協議会の実技試験概要には、音楽に関する技術について以下のように記されています。
■ 幼児に歌って聴かせることを想定して、課題曲の両方を弾き歌いする。求められる力:保育士として必要な歌、伴奏の技術、リズムなど、総合的に豊かな表現ができること。
保育士試験の実技試験に合格するためには、その意図を正しく理解することが大切です。では、音楽に関する技術の試験の合格ポイントは、どこにあるのでしょうか。
保育士という仕事上、子ども達と楽しく触れ合うことができるスキルをチェックされます。簡単に言い換えると、子ども達に「先生ともっと遊びたい!」「音楽の時間って楽しい!」と思ってもらえるかどうかです。そのためには、エンターテイナーとして、表情豊かに、楽しそうに演奏することが重要です。
また音楽を用いて、子ども達の表現力を伸ばせるかどうかも見られるでしょう。保育士は、保護者の代わりに世話をするだけでなく、教育者としての側面もあります。つまり、日常の保育の現場で、子ども達の表現力を伸ばしてあげるスキルが求められます。それを音楽に関する技術の試験シーンで、試験官に認識してもらう必要があります。
本記事は保育士試験のピアノについて解説しますが、造形については『保育士試験造形のコツは?令和5年度版攻略の動画も紹介!』を参照下さい。また言語については、『保育士試験言語対策とは?過去問&動画で徹底解説します!』を参照下さい。
1-2. 保育士試験音楽の試験詳細
1-2-1. 課題曲について
令和5年(2023年)の保育士試験の音楽に関する技術を課題曲は、以下になります。
<令和5年保育士試験音楽の課題曲>
① 『幸せなら手をたたこう』/作詞:木村利人 アメリカ民謡
② 『やぎさんゆうびん』/作詞:まど・みちお 作曲:團團伊玖磨
こちらから、課題曲の楽譜のダウンロードができます。
1-2-2. 演奏時に注意すべきこと
保育士試験音楽の実技試験で、注意すべきポイントを以下に記します。
<演奏時に注意すべきポイント>
① ピアノ、ギター、アコーディオンのいずれかで演奏する
② 紙の楽譜の持ち込みは可
③ ピアノの伴奏には、市販の楽譜か添付楽譜のコードネームを参照して、編曲したものを使用する
④ ギター、アコーディオンで伴奏する場合、添付楽譜のコードネームを尊重して演奏すること
⑤ いずれの楽器とも、前奏・後奏をつけてよい。歌詞は1番のみとする。移調してもよい
その他の注意事項を、以下に記します。
<その他の注意事項>
① ピアノ以外の楽器は持参すること。持参楽器の不具合(弦切れ等)がないようにすること
② ピアノは会場に設置された楽器(グランドピアノ、アップライトピアノ、電子ピアノのいずれか)を使用する
③ ギターは、アンプの使用を認めないのでアコースティックギターを用いること。カポタストの使用は可
④ アコーディオンは、独奏用を用いること(合奏用は使用不可)
また、曲全体を通じて次のように演奏した場合は、採点の対象外となるので要注意です。
・ 全体を通して伴奏しないで歌だけを歌った
・ 全体を通して歌を歌わないで伴奏だけを弾いた
・ 歌と同じ単旋律のみを弾きながら歌を歌った
1-3. 保育士試験実技の合格率
保育士実技試験の合格率は、約80%です。一方、筆記試験の合格率は約18%なので、実技試験の合格率はかなり高いといえます。
また実技試験の配点は、各科目50点満点です。6割以上取れれば合格とされており、30点以上が合格ラインです。ただし、その合格基準は明確に公表されていません。
受験概要を見ると、絵やピアノの技術のレベルではなく、保育士として子ども好かれるかどうかが求められています。なので、実技試験では表情豊かに、声に抑揚をつけ、子どもを楽しませるパフォーマンスが求められます。
2. 保育士試験音楽の最大の敵は緊張
2-1. 不合格の大きな要因は緊張
実技試験は、やり直しができません。例えば試験官の前で緊張すると、ベストなパフォーマンスができない可能性があります。特に当日の実技試験は、子どものいない状況で、あたかも子どもがいるかのように演奏する必要があります。つまり実際の保育の現場でできることを証明するために、演技力が求められます。
当日の実技試験の会場では、自分の番になるまでじっと待ちます。例えば大きな受験会場の場合、待ち時間が2~3時間になる場合もあります。そんな状況の中、一番注意したいのは「緊張感」です。
人は緊張すると、普段の実力を発揮できないことが多々あります。ましてや、国家資格である保育士を取得できるかどうかがかかっていると、緊張しがちです。実際ツイッターには、「ピアノでやらかしてしまった」「緊張で全部飛んじゃった…」「終わった後さすがに泣けた」という声があがっています。
表情や体の動きが硬くなりがちなこの緊張感をなくすことが、音楽の実技試験のポイントです。
2-2. 緊張による呼吸の乱れをなくす対策
人は緊張してしまうと、「心拍数が上がる」「呼吸が乱れる」といった状態になる可能性があります。そういった事態を防ぐためには、まずしっかり深呼吸することが効果的です。
また、試験の本番直前の手指のセルフマッサージもおススメです。緊張して汗をかきやすい方は、ハンカチをお守り代わりに手に持つと、気持ちが落ち着く効果があります。いかにリラックスしたベストな状態にもっていくかは、事前の練習と同じぐらい大切です。
2-3. 緊張による声の震えをなくす対策
普段から人前に出ると、どうしても緊張してしまう方はいらっしゃると思います。そんな方には、複式呼吸をしながら目をつむって、15~20人ぐらいの子どもの前にいることを想像しながら歌ってみることをおススメします。
例えば、YouTube動画『#49【楽器あそび】「しあわせなら手をたたこう」2歳児クラス』では実際の園児での演奏シーンが動画に収められています。この動画に合わせて、演奏と歌を練習すると、実際の保育の現場シーンに近い感覚を体で覚えることができます。
3. 保育士試験音楽の具体的対策
3-1. 楽譜の選び方とは
3-1-1. 自分の経験値に合う楽譜を選ぶ
保育士試験の受験申請の手引きによると、楽曲の指定しか表記されていません。また添付の楽譜は、主旋律とコードネームのみの簡潔なものです。つまり、伴奏を入れた楽譜は自分で用意する必要があります。
楽譜には、様々な種類のものがあります。音楽の実技試験で最高のパフォーマンスを発揮するには、自分の経験値に合う楽譜がおススメです。審査のポイントは、演奏の技術ではなく、「子どもを楽しませる弾き歌い」です。無理して難しい伴奏にトライするのではなく、自分にピッタリの伴奏で、「元気良く」「明るく」「楽しく」歌えることが重要です。
3-1-2. 「ハ長調」か「イ短調」の楽譜がおススメ
ピアノ初心者にとってやはり気になるのが、シャープ(#)やフラット(♭)の記号があるときに使用する黒鍵(こっけん)です。実技試験の本番で、黒鍵が上手に弾けず、つまずいてしまうリスクがあります。
そこで保育士試験の音楽で確実に合格するためには、♯(シャープ)や♭(フラット)の記号がついていない「ハ長調」か「イ短調」の楽譜を選ぶことをお勧めします。
3-2. ピアノ初心者でも簡単に弾ける伴奏方法
伴奏が三和音の場合、全ての音を弾かなくても大丈夫です。つまり、根音(ルート)だけでリズミカルに演奏します。ルート音とは、コードネームの一番左端にあるアルファベットです。例えば「Am7」のルート音は、「A」になります。
この弾き方を、「ルート弾き」といいます。YouTube動画の『はじめてのピアノコード弾きPart1 ルート弾き』では、ルート弾きを詳しく解説してくれています。
3-3. 歌や演奏を失敗した場合の対策
できるだけ失敗しなように、入念な準備をすることは大切です。しかし万が一、歌や演奏を失敗した場合の準備もしておくと心に余裕が持てます。
具体的には、「わざと間違え、そのまま動揺せずに続行する」練習をしておきましょう。なぜなら実技試験のピアノの本番では、間違えても明るく元気に最後まで歌うことが大切だからです。万が一、試験の本番の出だしでミスをした場合、試験委員にやり直しの許可をもらってやり直しができます。
3-4. YouTube動画を活用する
Youtube動画には、保育士試験の音楽対策動画がたくさんアップされています。動画が優れている点は、本番シーンでの弾き手の「表情」「歌」「演奏」の3つのバランスが、理解しやすいことです。
実際に動画を再生しながら繰り返し練習することで、ピアノの合格ラインに近づくことができます。またわからない部分は動画はすぐに停止したり、簡単に巻き戻して繰り返せるのも大きなメリットです。
4. YouTube動画で保育士試験音楽対策
ここでは、保育士試験音楽対策に使える再生回数の多い人気のYouTube動画をご紹介します。
4-1. ピアノ実技でやってはいけない4つのルールの解説
<保育士試験ピアノ実技でやってはいけないポイント>
この動画で頻繁に出てくるフレーズは、「これはピアノの試験ではなく保育士試験」です。受験要綱に書かれている「保育士として必要な歌、伴奏のリズム、リズムなど、総合的に豊かな表現ができること」が一番大切です。
① ピアノ演奏の途中で止まってはいけない/多少弾き間違えても弾き続けること
② ピアノ演奏が上手すぎてもダメ/歌声とピアノ伴奏のバランスがとても重要
③ 歌う声の大きさは超重要/小さな声で歌ってしまっては台無し
④ ギターは要注意/課題曲の雰囲気がガラっと変わるリスクがあるのでピアノでの受験がおススメ
4-2. 保育士試験音楽の当日の流れの解説
<保育士試験実技試験/音楽に関する技術の当日の流れのポイント>
実際の試験会場の当日の流れを、丁寧に解説してくれている動画です。事前に試験当日のイメージを把握しておくことで、気持ちがリラックスでき、余裕を持って弾き歌いに臨むことができます。
① ガイダンスを聞き、自分の試験室番号および試験時間を把握します
② 決められた時間までに、待機室に入室します
③ 時間が近づくと、誘導係の誘導に従い、移動します。試験室の外の椅子で待ちます
④ 順番が来たら、ドアを3回ノックして「失礼します」と声をかけ、軽く会釈をした後にドアを閉めます。そして、採点委員に「宜しくお願いします」と一礼します
⑤ 入室すると、手荷物を荷物置き場に置くようにいわれるので置きます。その後、受験票から「受験番号シール」を2枚はがし、2名の採点委員に各1枚ずつ渡します
⑥ 受験票を荷物置き場に置き、採点委員の指示があり、「受験番号」「氏名」「宜しくお願い致します」をいう
⑦ 採点委員から始めるようにいわれると、椅子の高さを調整し、着席後演奏します。演奏終了後は立ち上がり、椅子の横で採点委員に向かい、「ありがとうございました」と一礼します
⑧ ドアの前で採点委員の方を向いて、「失礼します」と一礼し、ドアを開けて退室します
※試験前に他の受験生の演奏の音が聞こえますが、気にしないようにしましょう
4-3. 令和5年度 保育士実技試験課題曲 弾き歌いの解説
<『幸せなら手をたたこう/やぎさんゆうびん』中・上級編/弾き歌いのポイント>
リトミックの指導経験もあるピアノインストラクターさんが、保育士試験実技ピアノの課題曲の弾き歌いの見本を見せてくれます。このYouTube動画を何回も再生しながら、リズムや歌声の大きさを真似ることで、合格ラインに近づけます。
① 幼児に向けての弾き歌いのポイントは、「笑顔」で「元気良く」「演奏すること」です
② 恥ずかしがらずに元気を出しましょう
③ 思いっきり弾き歌いしましょう
5. 保育士試験音楽の過去問について
保育士試験音楽に合格するためには、試験の傾向と対策が重要です。以下に、保育士試験「音楽」の今年と過去問を記します。
5-1. 2023年(令和5年)の課題曲
① 『幸せなら手をたたこう』 (作詞 :木村利人 アメリカ民謡)
② 『やぎさんゆうびん』 (作詞:まど・みちお 作曲:磯部俶)
5-2. 2022年(令和4年)の課題曲
① 『小鳥のうた』 (作詞 :与田凖一 作曲:芥川也寸志)
② 『びわ』 (作詞:まど・みちお 作曲:團伊玖磨)
5-3. 2021年(令和3年)の課題曲
① 『あひるの行列』 (作詞 :小林純一 作曲:中田喜直)
② 『揺籃(ゆりかご)のうた』 (作詞:北原白秋 作曲:草川信)
5-4. 2020年(令和2年)の課題曲
① 『大きな栗の木の下で』 (※イギリス民謡で作詞作曲は不明)
② 『ニャニュニョのてんきよほう』 (作詞:小黒恵子 作曲:宇野誠一郎)
5-5. 2019年(令和元年)の課題曲
① 『どんぐりころころ』 (作詞 :青木存義 作曲:梁田貞)
② 『バズごっこ』 (作詞:香山美子 作曲:湯山昭)
5-6. 2018年(平成30年)の課題曲
① 『おかあさん』 (作詞 :田中ナナ 作曲:中田喜直)
② 『アイアイ』 (作詞:相田裕美 作曲:宇野誠一郎)
5-7. 2017年(平成29年)の課題曲
① 『こいのぼり』 (作詞 :近藤宮子 作曲者不詳)
② 『一年生になったら』 (作詞:まどみちお 作曲:山本直純)
5-8. 2016年(平成28年)の課題曲
① 『かたつむり』 (文部省唱歌)
② 『オバケなんてないさ』 (作詞:まきみのり 作曲:峯陽)
6. 保育士試験音楽のまとめ
保育士試験音楽のピアノは、子ども達に「歌って楽しい!」と思ってもらえる保育士のスキルをチェックするものです。そのためには、演奏の技術がメインではなく、表情の豊かさや大きく元気な声といった要素が重要視されます。
そして、弾き歌いの最大のネックは「緊張」です。緊張して声が上手に出なかったり、演奏でミスをしてしまう可能性があります。そのため、本記事では緊張を緩和する方法や、本番当日の詳細な流れ、試験会場の配置図などイメージングできる要素を掲載しました。
是非、ご活用頂ければ幸いです。