食物アレルギーは、特定の食べ物によって引き起こされるアレルギー反応です。一歳未満の乳児で最も多く発生するため、保育園での対策は非常に重要です。
例えば給食やおやつなどの食物を扱うシーンで、丁寧にケアする必要があります。また万全のアレルギー対策を実現するためには、保護者の方の協力も欠かせません。
本記事では、食物アレルギーの一般的な知識から保育園での対応策まで解説します。
目次
1. 食物アレルギーについて
まず最初に、食物アレルギーはどういうものかを解説します。
C子
うちの園に卵アレルギーの子がいて配膳の時に間違えそうになってしまいヒヤリとしました
特に重度の子は気を付けないといけないよね。小さい子ならなおさら落ちたものを触ってしまうこともあるし
B子
A子
お盆や食器の色を変えたりして工夫が必要よね。この記事では食物アレルギーだけでなく様々なアレルギーの対処法を紹介しているわよ。ぜひ、参考にしてみてね。
1-1. 食物アレルギーとは
食物アレルギーとは、特定の食べ物を食べたり、触れた後にあらわれる疾患です。その症状は、皮膚や呼吸器、消化器官などに生じます。アレルギーを起こす物質には、食べ物だけでなく、花粉やカビ、ダニなど様々なものがあります。
1-2. 食物アレルギーの原因
1-2-1. 食物アレルギーのメカニズム
私達の体には、「免疫」という仕組みがあります。免疫とは、ウィルスや最近が入りこんだ時に、「抗体」を作って異物を排除する仕組みです。
しかし一部の人は、排除する必要のない食物や花粉に抗体を作ってしまいます。この多くのアレルギー反応を起こす抗体を、「IgE抗体」といいます。IgE抗体は、アレルギー反応を起こすマスト細胞の表面の付着します。そしてアレルゲンが侵入してくるのを待ち構えます。この状態が、「感作(かんさ)」です。
感作の状態にアレルゲンが入り込むと、アレルゲンはIgE抗体と結びつきます。そしてその刺激により、マスト細胞はヒスタミンなどの化学物質を放出します。この時放出される化学物質が、様々なアレルギー症状を発症させるのです。これを「即時型アレルギー反応」といいます。アレルギーの多くは、このメカニズムで発症します。
2. 食物アレルギーの症状
2-1. 食物アレルギーの症状と発症頻度
食物アレルギーの症状で最も多くみられるのは、皮膚症状です。具体的には、「皮膚のかゆみ」や「蕁麻疹(じんましん)」、「発赤(ほっせき)」、「皮疹(ひしん)」などがあります。次に多いのは目の症状で、「目のかゆみ」や「目の充血」、「瞼の腫れ」などがあります。
その他にも、「咳」や「ぜん鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)」「呼吸困難」などの呼吸器症状や、「くしゃみ」などの粘膜症状、「腹痛」などの消化器症状などがあります。これらの症状には、軽症から重症まで個人差があります。
2-2. 赤ちゃんや子どもの食物アレルギーの症状
離乳食を食べた時の赤ちゃんや子どもの食物アレルギーの症状には、「皮膚粘膜症状」と「呼吸器症状」、「消化器症状」があります。
皮膚粘膜症状としては、「かゆみ」や「蕁麻疹」、「浮腫」などがあります。また呼吸器症状には、「くしゃみ」や「あえぎ」、ひどくなると「呼吸困難」が出ることもあります。消化器症状は、「下痢」や「嘔吐」といった症状が出ます。
3. 保育園での食物アレルギーへの対応
3-1. 実際の食物アレルギー例
食物アレルギーは、入園当初には症状が無かったとしても突発的にアレルギーを引き起こす可能性があります。そのため、しっかりとアレルギー別の症状を把握することが重要です。
アレルゲン物質によっては、触れただけで反応がでる場合もあります。そのため、食事後の配膳の片付けや掃除も気を付けるべき項目として挙げられるでしょう。
上の写真は、卵アレルギーの反応があった0歳児クラスの園児です。入園当初(生後6か月)は反応はなく、生後8か月を経過した頃にアレルギー反応がありました。
口にしたものは過熱した卵料理です。乳幼児用スプーン1口で、顔と腹部に赤い発疹がでました。そこで症状が出てからすぐに病院で受診し、3時間程で発疹は治まったようです。血液検査をすると卵アレルギーの反応があり、保育園での除去食がスタートしました。
3-2. 保護者との面談
3-2-1. 保護者向けアレルギーアンケート
アレルギーへの対応は、園によって様々です。企業主導型事業の四季のいろ保育園では、入園前の見学~入園後のアレルギーの各書類の提出をお願いしています。
0~1歳児には、家庭で食べたことのある食材のみ提供しています。家庭で食べてないものを園では口にしないよう、こちらの書類を園と保護者でやりとりしていきます。
3-2-2. 食物摂取表
アレルギーを持つ園児は、こちらの表の提出をお願いしています。症状や処方薬などアレルギー反応があった場合に、どのような対処が必要かを保護者判断ではなく、医療機関からの指示により対応する為の書類となります。
医療機関からの指導表と一緒に提出をお願いしています。近年、血液検査で反応があったアレルギーと別に併発するアレルギーも少なくはありません。保育園ではしっかり除去食や代替食で対応をしていても、突発的に反応が出ることがあります。
併発していることがわからない保護者からのクレームなどを防ぐ為の書類です。
3-2-3. アレルギー除去食同意書
アレルギーがある子どもに関しては、保護者と個別に面談をすることをおススメします。アレルゲンの確認だけでなく、自治体や保育所のアレルギー対応はどのように行うのか、を説明しておきましょう。その理由は、保育園側の対応に何か不足していないことがないかを確認するためです。
万が一子どもにアレルギー症状が出た際の処置や、服用薬、エピペンについても、保護者と詳しく面談を行ってください。
3-3. 保育園内での共有
保護者との面談後、クラス会議、職員会議等で、全体への共有を必ず行います。小規模園ではクラス担任が休みの際には、他クラスの保育士が補助としてクラスに入り、食事介助をすることもあります。
一人ひとり責任感を持って食事介助を行うためにも、園全体でアレルギーの園児を把握する必要があります。とくに問題が起きやすいのが、スタッフの交代時です。例えば調理スタッフが交代する際、そのスタッフ間のみで情報の引き継ぎを行うのではなく、複数のスタッフを交えて、漏れのないように情報共有を行うと良いでしょう。
こちらの資料は、アレルギーを持っている園児の日々の記録になります。食事をした時の様子や反応があった場合の様子を細かに記録し、職員会議にて現状報告を行っています。
3-4. 情報のアップデート
3-4-1. アレルギー症状の特徴
アレルギー症状は、子どもの成長により軽減したり、消失したりすることがあります。逆にこれまで反応示すことはなかったのに、突然アレルギーを発症することもあります。
そのため、アレルギーへの対処法や情報のアップデートは、随時行う必要があります。常に最新の情報を保つために、職員間で共有することが大切です。
3-4-2. アレルギーの解除書類の提出
症状の軽減や消失、医師の指示により少しずつ食事の提供を始めていく場合には、アレルギーの解除書類の提出もお願いしています。
3-4-3. 食べれる食材が増えるようにサポート
先程の卵アレルギーの園児は、現在1歳になり血液検査後にアレルギー反応が見られなかったため、少しずつ卵を食べています。
今後も家庭と園の連携は続きますが、食べられる食材が増えるよう支援していくことが保育園の課題です。
4. 日常での保育園の食物アレルギー対処法
4-1. 保育士編
4-1-1. 食事の準備
机の設置場所は園により対応は様々ですが、できるだけ他の机と並べないようにします。特に0~3歳児までは、本人がアレルギーの自覚が無いため、手を伸ばしても届かない位置に設置しましょう。
【1歳児クラスの机の配置図】
机の向きを一定にし、保育士は全体が見える位置に座ります。アレルギーの子どもには、保育士が1名必ず付き見守ります。食事後は着替えを行い、午睡の準備に入るためお昼寝ベッドへ移動しますが、ここで重要なことは食べこぼしを床に落とし、それをアレルギーのある子どもが拾って口にしてしまうことを想定し、事前に対策を行いましょう。
こちらの園では、ピンクの矢印のように普通食を食べた子とアレルギー食を食べた子の導線を分けるようにしておくと、拾って触れることもなく子ども達も安全に移動ができます。
【食事の提供方法】
四季のいろ保育園では、アレルギー食のおぼんに、調理員が該当の園児の写真を乗せて提供しています。また食器とおぼんの色を変え、見た目でもはっきり認識できるようにしています。
提供前に見た目や匂いなどで違和感を感じた場合、すぐに給食室に尋ねるようにしましょう。
4-1-2. 食事介助
アレルギー食を食べる子どもにつく保育士は、しっかり分けるようにしましょう。万が一、普通食に触れた場合にはしっかりと手洗いを行いましょう。
4-1-3. 食事の片付け
食事後には、机と床に食べこぼしが多く落ちています。子ども達が触れる所を、隅々まで清掃を行いましょう。特に床の隙間等は、入念に清掃をするよう心がけてください。
4-2. 看護師編
事故が起きないことが一番ですが、万が一事故が起きた場合には、看護師が処置を行うことが求められます。アレルギーの種類によっては、保護者の面談に看護師が同席し、園での対処法をヒアリングしておきましょう。
エピペンを使用する子どもがいる場合、エピペンの使用方法も把握し、看護師がいない場合でも職員が対応できるよう職員会議で共有しておきましょう。
4-3. 栄養士・調理師編
食物のアレルゲンを持つ子どもは多く、栄養士と調理師は十分に配慮する必要があります。少量のアレルゲンであっても、アナフィラキシーショックといった、重篤な症状を引き起こす可能性があります。
安心・安全の確保を優先し「家庭で食べたことのない食物は、基本的に保育所では提供しない」といったことを、徹底してください。また、定期的に保育室へ子どもの食事の様子を観察しましょう。
5. 食物アレルギー症状の応急処置
5-1-1. 緊急性の高いアレルギー反応が出た場合
意識が朦朧として呼吸困難に陥ったり、何度も嘔吐したりといった反応が出た際は、必要に応じて救急車を呼んでください。その後、安静にさせて到着を待ちます。四季のいろ保育園では、アレルギー発生時のマニュアルを全体で共有し早急な処置ができる体制を整えています。
このようなフローは、保育室の見えやすい位置に掲示し早急な対応ができるようにしておきましょう。また、日頃から職員間で訓練しておくことが重要です。
5-1-2. 緊急性の対応方法について
緊急時の対応方法について、フロー図を以下に記します。
6. 食物アレルギー関連のYouTube動画紹介
6-1. お菓子で治る!?子どもの食物アレルギーへの取り組み
この『お菓子で治す!? “卵焼きの味を知らない少女たち” ‥子どもの食物アレルギーとどう向き合うか』は、非常に興味深い内容です。
食物アレルギーに家族で取り組む様子を、CBCテレビが伝えています。
6-2. 重度アレルギーの親子を10年追った記録
重度の食物アレルギーで発生するアナフィラキシー。TBS報道特集が、原因となる食材を口にする治療法にチャレンジする親子を10年追ったのが、この動画です。
『重度アレルギーと親子の記録【報道特集】』では、「みんなと一緒にピザを食べたいから」と懸命に頑張る子どもと母親の姿が描かれています。
6-3. 食物アレルギーの緊急対応シミュレーション
この動画では、「アレルギー症状からの意識不明、救急車がくるまでの対応、AED使用」の実演シミュレーションを見せてくれます。
『食物アレルギー 緊急対応シミュレーション』では、小学生の子どもに食物アレルギーが発生し、痒み・発疹・腹痛・呼吸困難・意識不明になった場合を設定しています。
6-4. 全ての食べ物にアレルギーが起きる全食品アレルギーの実話
全ての食品にアレルギー反応が起こるという実話に関する動画です。
『【実話】全ての食べ物にアレルギーが起きてしまう「全食品アレルギー」になるとどうなるのか?(漫画)』をみると、いつも当たり前に食べれることに感謝の気持ちが生まれます。
7. まとめ
保育園で起こるアレルギーについてまとめると、下記になります。
① 入園前からアレルギーについてのヒアリングをしっかり行う
② 食事介助の際には配置や導線をしっかり分ける
③ 自身のアレルギーを把握できない子どもを守るため、保育園、保護者、主治医と密な連携を取ることが大切
④ 緊急時の対応方法については、日頃から職員間で訓練しておく
保育士にとっても子どもにとっても、多くの時間を過ごすのが保育園です。アレルギーの原因となるものを避け、正しい知識と対処法を知り、徹底したチェック体制で子どもたちを守りましょう。